はじめに
獣医療の進歩といままで原因すら不明であったような病気の解明が進み、さまざまな治療法も開発されてきました。その進歩はめまぐるしく、我々獣医ですら日々の努力なしではあっという間に時代の流れから遅れてしまうほどです。
このページでは星の数ほどある、いぬとねこの病気(たまにそれ以外も)について飼い主の皆様にわかりやすく、そして少しだけ詳しく説明していきたいと思います。
目標は一週間ごとにひとつの病気を説明していくことですが、あまり期待せずにチェックしてみてください。
※注意※このページの内容はあくまで参考程度にしてください。できる限り正確な情報を発信したいとは思っていますが、間違っていることもありますので病気になったときはきちんと病院にいってください。
いぬとねこの病気
第32回 尿石症 2012.03.21
みなさんこんにちは。3月も残し少しになりましたが、この時期は別れの季節ですね。学生を終えてからはあまり意識しなくはなりましたが、それでもこの時期になると何人かの方から転勤などでお別れを知らせていただくことがあります。こんな私でも、もう会うことがないと思うとすごくさみしい気分になってしまいます。
さて、そんなセンチメンタルな今日この頃ですが、今回は尿石症です。以前も膀胱炎、尿道閉塞の項目で少し触れたことがありますが、今回は尿石症だけにスポットを当ててみたいと思います。
尿石症は、犬でも猫でもよく見かける泌尿器の病気ですが、血尿や頻尿の症状が見られるときもあれば、まったく症状がなく健康診断で偶然見つけられることもあります� ��
そもそも、なぜ尿中に石ができてしまうかということですが、細菌性膀胱炎、門脈体循環シャント、高カルシウム血症といった石ができやすくなる病気で二次的に発生する場合を除いて、はっきりとした原因はわかっていません。
食事や、体質などが影響するようですが、根本的な原因がはっきりしないことも多々あります。
先ほどからイシイシといっていますが、石も何種類かあって、犬猫で多いのはリン酸アンモニウムマグネシウム(ストラバイト)とシュウ酸カルシウムの2種類です。割合は半々といったところでしょうか。
他にも尿酸塩やシスチンといったものもありますが今回は割愛します。
さて、この2つの石ですが、どちらができるかで治療の方針、困難さはまったく変わってきます。
ストラバイト� �尿がアルカリ側に傾いたときにできやすく、細菌性膀胱炎の後などに一時的にできることもありますが、この石は食事療法(療法食でいうとpHコントロールやs/d、c/dなど)で溶かすことができ、再発の予防も簡単にできます。しかし、食事療法は根本的に体質を改善するわけではないので場合によっては生涯続けなければならないこともあり、そういう意味では簡単ではないのかもしれません。
一方、シュウ酸カルシウム、これは厄介です。シュウ酸カルシウムは尿が酸性側に傾いたときにできますが、この石は一度できるとほぼ消えません。一応、シュウ酸カルシウム用のフード(u/dなど)はありますが、予防効果は期待できても、融解に関してはあまり期待できないといわざるを得ません。
では、シュウ酸ができたときはどうす るかということですが、これはもう人為的に摘出するしかありません。1ミリくらいの小さい状態であれば膀胱を圧迫して尿道からがんばって出すことも可能ですが、ある程度の大きさの石になると外科的に膀胱を切開して摘出しなければならなくなります。
また、先ほども述べたとおり、石ができるのは体質が大きく関与しているので、摘出してもまたできてしまう可能性が高いので、摘出したあとは、石を作らせないための食事療法や、石をできにくくするためにクエン酸製剤やビタミンB6や利尿剤などの薬を使用します。しかし、それでもできてしまうことは多々あります。
尿石があることで、膀胱炎や尿道閉塞になることがありますし、症状がなくてもどんどん大きくなると手術しなければならなくなります。
すぐに命 にかかわるわけではないのですが、長期的な治療を考えなければならない点で厄介な病気といえます。もし、この病気になったときはかかりつけの獣医さんとよく相談して、納得の行く治療法をしてあげてください。
第31回 副腎皮質機能亢進症 後編 2012.03.07
みなさんこんにちは。3月になってようやく暖かい日も増えてきて雪も少しずつ解けてきました。この時期は犬の散歩後は足がどろどろになって大変ですよね。私の犬はダックスなので足だけでなくおなか周りも大変なことになってしまうので、この時期はお散歩はお休みのことが多いです。まあ、もともとあまり散歩は行きませんが、早く春がきてほしいものですね。
さて、今回は前回の続きになります。クッシングと診断がついたら次は治療に入ります。
治療は原因を取り除く根治を目的とした治療と、過剰に出ているコルチゾールを抑える対症療法に分けることができます。
原因は前回書いたように、副腎そのものがおかしくなっている場合と副腎に指令を出している脳の一部(下垂体という部分)が腫瘍化している場合になりますが、副腎が片方だけ腫瘍化している場合などは摘出手術が選択されることもありますが、下垂体の場合は今の時点ではあまり手術は選択されません。
いずれは獣医療でも脳外科が発達すれば手術は増えるかもしれませんが今の時点ではあまり一般的には行われていません。したがって、ほとんどの場合はコルチゾールを抑える対症療法がとられることが多 いように思います(放射線療法もありますがこちらもまだ一般的には行われていません)。
コルチゾールを抑えるためには継続的に薬を飲み続ける必要があります。以前は、副腎を破壊することでコルチゾールの量を減らす薬しかなく、破壊しすぎると今度は逆にコルチゾール欠乏になってしまうという副作用がありましたが、今はコルチゾールを生成する過程を邪魔するトリロスタンという薬ができたおかげで、以前よりも安全に治療することができるようになりました。
うまく薬が効くと飲み始めて数日で飲水量、尿量が減ってきます。そのほかの脱毛といった症状も数ヶ月で改善していきます。
気がついていないだけでこの病気を持っている中高齢の犬は結構いると思いますが、実は治療しなくても問題ない場合もたくさんあります。
治療するかどうかは、多尿や皮膚の症状が気になるかどうかで判断します。つまり、これらの症状がなければ治療しないという選択をすることもあります。
もちろん治療するに越したことはないのですが、薬が高価であったり、毎日投薬しなければならないなどの事情もあるので、我々も絶対とはいえないところです。
ただ、この病気で命にかかわってくる症状として血栓ができやすくなるというのがあります。血栓ができること自体あまり多くはないですが、肺などに血栓ができることで突然死してしまうことがあります。
私も以前はクッシングのときは、治療するかどうか� �飼い主さんの判断に任せていたのですが、血栓のことを考えるともしかすると症状が軽くても治療したほうがいいのかも知れないのかなとも思ったりしています。
この辺は今後変化していく可能性があるのではないかと考えています。
この病気になっても元気食欲は変化がないため、この病気を訴えて来院するよりも、健康診断などで発見されることが多いと思います。もし、おうちの犬に多飲多尿、脱毛、腹囲膨満といった症状があるようでしたら一度病院で検査してもらってみてはどうでしょうか?
第30回 副腎皮質機能亢進症 前編 2011.02.29
みなさんこんにちは。今年はうるう年なのですね。うるう年は4の倍数の年に一年が一日多くなるのですが、実は4の倍数でもうるう年でないときがあるのです。たとえば2100年はうるう年ではありません。理由は地球の公転の周期365.2422日だからなのです。これだけではさっぱりだと思うのですが、詳しく知りたい方は調べてみてください。なかなか面白いですよ。私はこの話を中学の数学の先生に聞いて感心した覚えがあります。
さて、今回の病気は副腎皮質機能亢進症です。別名ではクッシング症候群とも呼ばれます。どちらかというとこちらのほうがよく使われるかもしれませんが、病気としては読んで字のごとく副腎という臓器の皮質という部分の機能が過剰になってしまう病気です。
この病気は中高� ��の犬でよく見かける病気で、猫ではあまり見かけないように思います。
そもそも副腎という臓器はあまり聞きなれないかもしれませんが、腎臓の横にある器官で、さまざまなホルモンを分泌し生体内のバランスをとるためにとても重要な臓器です。
クッシングはこの臓器から出ているコルチゾールとよばれるホルモンが過剰に産生される病気です。
過剰に産生される原因は、この臓器自体に問題があってなる場合と、脳にあるこの臓器にホルモンを作る指令を出す部分が暴走してしまう場合があります。
症状はコルチゾールの過剰によるさまざまな臓器の異常ですが、もっともよく見られるのは飲水量の増加と尿量の増加です。水は通常一日あたり体重あたり60mlまでが正常範囲ですが、クッシングになると100ml以上飲� ��ようになります(体重10kgだと1リットル以上)。これは、コルチゾールの影響で尿が大量にできるために喉が渇いてしまうからです。
他には、背中から体側にかけての毛が薄くなったり、筋力の低下により中年男性のようにおなかがぽっこりと膨れてしまったりします。
他にもいろいろな症状が見られるこの病気ですが、上記のような毛が薄くなり、丸っこい体型になるといった特徴的な外貌になり、ほとんどの動物で最近水をよく飲むようになったと相談されるので、慣れるとぱっとみただけでこの病気くさいなとわかるようになります。
診断は、なかなかややこしいのですがざっくりというとコルチゾールが過剰に出ているかどうかを血液検査で調べます。この検査はまず基準となる普通の状態で血液を採取し、その後副� ��を刺激する薬剤を投与し、その一時間後に再度採血をしてどれくらいコルチゾールが上昇するかを測定するというものです
。他にも上述の脳の問題か、副腎の問題かを判定するための検査もありますが、とりあえずクッシングかどうか最初に調べるのはこの検査になります。
少し長くなってきたので、今回はこの辺でいったんおしまいです。次回治療について説明したいと思います。
つづく
第29回 猫ウイルス性鼻気管炎 2012.02.15
みなさんこんにちは。私は映画が結構好きで、ありきたりなものを浅く広く鑑賞するのですが、よく悪のボスが長毛の猫を抱いていることがありますよね。もし、あの猫が病気になったときはちゃんと病院に連れて行くのでしょうか?なんだかんだいいながら結構かわいがっているみたいなので、意外とあの悪そうなボスも心配で夜とかずっと寝ないで看病とかしてしまうのでしょうか?
さてそんな話はまったく関係ないですが、今回は猫のウイルス性の病気です。
この病気はくしゃみ、鼻水、目やに、発熱といった症状がみられるので、猫カゼとも言われることがある病気です。
原因はヘルペスウイルスの感染で、上記のように我々が風邪をひいたときのような症状が見られます。
猫は鼻が利かないと食事を� ��らなくなることがあり、鼻水で鼻が詰まってしまうと匂いがわからないために食欲がなくなってしまいます。
大人の猫もなることもありますが、大半は生後2ヶ月くらいの子猫が多い印象があります。また、子猫ほど症状が重篤になる傾向があり、成猫であれば一週間くらいで自然と治るのに対して、子猫だと脱水し、衰弱して命を落としてしまうこともあります。
混合ワクチンを接種しているとかかりにくくなり、たとえかかっても軽症ですみます。
この病気は他の猫にも伝染するので、多頭飼育の家庭ではどんどん他の猫にうつっていって大変なことになってしまうこともあります。また、病院のように弱った猫が集まるところでは、成猫でもウイルスをもらってしまうことがあるのでこの病気の猫さんは時間をずらして他� ��患者さんがいないときにきてもらったりします。
治療は基本的には自力で回復するしかないのですが、炎症を起こした鼻や喉の粘膜に二次的に細菌が感染するのを防ぐために抗生物質を投与したり、抗ウイルス作用のあるインターフェロンを投与したりします(一般的にウイルスと細菌はごっちゃで考えられることが多いですが、実はまったく別物で、ウイルスには抗生物質は効果ありません)。
子猫で脱水を起こしている場合には点滴をしたり、流動食を給餌したりと支持療法も重要です。
適切な治療をすれば多くは無事に元気になりますが、まれに慢性化してしまい冬場になると鼻がぐずぐずしてしまうようになることもあります。
我々は風邪ですぐに病院に行くことはあまりないですが、人よりずっと小さい猫に� �っては数日の様子見が命取りになってしまうことも十分にありえますので、なるべく早めに病院に連れて行ってあげるようにしていただければと思います。
あと、犬はこのような風邪といった病気はありません。なので、冬場に熱があるとか食欲がないのは風邪のせいかなと思わずに早めに病院で診てもらいましょう。
第28回 毛包虫症 2011.02.08
みなさんこんにちは。札幌では先日より雪祭りが開催されていて、道外からたくさんの観光客が集まるようです。有名な祭りなのですが、周りの人に聞いてみると札幌に住んでいる人はほとんど行かないみたいですね。私は大学から北海道に来たので、ものめずらしくて最初のころは見に行っていましたが、最近は会場の横を車で通るだけで満足してしまいます。だいぶ道民らしくなってきたのでしょうか。
さて、今回はあまりなじみはないかもしれませんが、毛包虫と呼ばれる寄生虫のお話です。
他にもアカラスやニキビダニとも呼ばれることがありますが、下の絵のような顕微鏡で見ないとわからない小さいダニが皮膚で異常に増殖してしまう病気です。
実はこのダニは正常な犬猫の皮膚にも少しいて、さ� ��に人にもいるダニです。これが何らかの原因で過剰に増殖して、脱毛や皮膚炎を起こします。
では、何が原因で増殖するのかというと、免疫力の低下です。
たとえば、アレルギーの治療で長期的にステロイドを服用している、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能低下症といった疾患にかかっている場合などで免疫力が低下してしまいます。
他にも、原因がはっきりせずに毛包虫が増殖することもありますが、多くは遺伝的に皮膚や免疫力に異常がある場合が多いようです。
症状としては、脱毛や皮膚の赤み、黄土色のがびがびがの形成がみられ、病変は一部だけの時と、全身性に広がる時があります。
また、同時に細菌の感染も生じて、皮膚が膿んでしまっていることもあります。こうなると非常に痒みが強くなってし まいます。
よくみられる病変の部位は、手や足の先、顔、背中などが多いですが、全身性に広がると体中の毛が抜け落ちてしまうこともあります。
治療は、ダニを除去する薬を使用します。この薬は週に1回注射または口から飲むのですが、今までの経験では注射したほうが効きがよい印象があります。
ただ、注射だと週1回来院が必要なので、どうしても難しい場合は飲み薬で治療することもあります。
上にも書いたように、免疫力が低下していることが原因のことが多いので、そちらのほうの治療をしないと、いつまでたっても治りません。しかし、原因の治療はなかなか一筋縄でいかないことが多く、完治が難しいまたはすぐに再発してしまうということもあります。
よく伝染するかどうかを聞かれることがありま すが、先述のとおりもともと皮膚にいるダニの過剰増殖であるので、うつることはほとんどありません。しかし、このダニが体中にびっしりいると思うとゾワッとするので、早く直してあげたいですね。
第27回 去勢手術 2012.02.01
みなさんこんにちは。巷ではインフルエンザが猛威を振るっていますが、皆さんは大丈夫でしょうか?
私は風邪はよくひきますが、幸いインフルエンザには今までかかったことがありません。
しかし、最近歳のせいか、以前に比べて免疫力が落ちてきたように感じるので、初インフルエンザを体験する日もそう遠くないのかもしれません。
さて、今回は去勢手術についてのお話です。ご存知かと思いますが、去勢手術はオスの動物の精巣を摘出する手術で、いわゆる中性化、不妊手術と呼ばれているものです。
我々は去勢手術のことをキャストといいますが、英語のcastrationからきているのだと思います。
去勢手術は、数ある外科手術の中でも簡単な手術で、獣医になって最初にする手術は猫の去勢手術のことが多いのではないでしょうか。
術式を簡単に説明すると、猫の場合は陰嚢の真ん中を切開して精巣を取り出し、精巣に向かう血管と精管を糸で縛って切り取ります。切開した陰嚢は特に縫合しなくてもよいのでそれで終了になります。
この点については最初は驚きましたが、すでに中身がなくなっているので問題なく傷は癒合してくれます。猫の去勢は慣れると数分でできるようになります。
犬の場合は陰茎の根元付近の皮膚を切開し、陰嚢から精巣をその切り口まで押し上げてそこから精巣を取り出します。犬は陰嚢を切ると血がたくさん出るので、陰嚢を避けて切開します。犬の場合は切開創を縫合するので少し猫 より時間はかかりますが、大体10分くらいで終わります。